2025年の春でした。
作曲の神村さんから「源井和仁が生前に書き上げた最後のミュージカル脚本を演出してくれないか?」とお話を頂きました。源井さんと私は面識がないのですが、きかんしゃトーマスのミュージカルの脚本を書かれていた源井さんの後を引き継ぎ、私がトーマスの脚本を書かせてもらったご縁があります。脚本を読んで、自然と沸いた気持ちが「この作品好きだな、演出したいな」でした。しかし同時に、脚本や作詞で数々の功績を残してこられた源井さんの遺作となるような本を私が演出。荷が重い・・そう思っていました。
神村さんと新宿で飲みながら沢山語り、この作品への情熱も聞きました。源井さんの奥さまが「ぜひ形にしたい」とずっと動いてこられたこと。なかなか演出家がはまらなかったこと。神村さんと源井さんの友情。「この作品と私の相性がいい」とも言ってくれました。それでも悩みました。もっと適任の演出家がいるのではないか?もっと有名な方に・・・。
けど、やると決めました。
脚本の中に、日付が出てきます。ほとんどが○年○月○日なのですが、指定された日付がありました。10月23日。私の誕生日です。源井さんに「あなたがやりなさい」と指名された気分でした。
この作品が、皆さまの心に残り、これから先もずっと、ずっと、ずっと、上演され続けられる舞台になるように、BEAUTIFULなものを皆で創りたいと思います。源井さんと一緒に。
静恵一(演出)
01. 一通のメールから始まった物語(2020年1月)
源ちゃんから『BEAUTIFUL』の脚本が届いたのは、2020年1月。前年、肺腺がん治療のために入院していた源ちゃんは、「ただゴロゴロしていてももったいない」と思い立ち、一気にこの脚本を書き上げたと話していました。
彼は以前から、「オフブロードウェイのような、小ぶりでウェルメイドな作品を創りたい」 と語っており、ライブハウスや小劇場での上演を想定していました。
新作ミュージカルを何作も書いていたものの、いずれもまだ舞台化には至っていませんでした。
そんな中で届いたこの脚本に、僕は胸が熱くなり、
「ついに一緒に温めてきた企画が動き出す」と強く感じました。
02. コロナ禍と、叶わなかった再会
「次に上京したときに音楽の構想を練ろう」──
そう約束していた矢先に、世界は新型コロナの影響で動きを止めました。
源ちゃんと直接会うことは叶わず、一度だけ妻同士を交えた“オンライン飲み会”をしたものの、『BEAUTIFUL』の話はあえて避けました。
「今度会ったときにゆっくり話そう」と決めていたからです。
しかし、その「今度」は訪れませんでした。
源ちゃんは2020年11月、この世を去りました。
30年来の親友であり、数々の作品を共に創ってきたかけがえのないパートナーを失い、僕は深い喪失の中にいました。
03. 追悼番組をきっかけに、再び動き出した創作
時間が経ち、少しずつ現実を受け入れられるようになった頃、
彼の遺した『BEAUTIFUL』と再び向き合いたいと思うようになりました。
しかし、脚本に記された10曲のナンバーを形にしようとすると、思いが強すぎて空回りするばかり。
そんな折、源ちゃんの妻・まゆ美ちゃんを中心に追悼番組の制作が決まり、番組テーマ曲として『BEAUTIFUL』のラストナンバー**「SO BEAUTIFUL」**を手がけることになりました。
多くの友人・仲間が出演してくれた番組は素晴らしいものとなり、この曲を完成させたことで、僕自身も一歩前へ進むことができました。
その流れで、番組スタッフを中心に**『BEAUTIFUL』制作委員会**を立ち上げ、舞台化に向けて再び歩み始めました。
04. 演出家との出会い──そして動き出す舞台化
プロジェクトは順調とは言えず、特に“演出家”がなかなか決まりませんでした。
転機になったのは、ファミリーミュージカル『きかんしゃトーマス』の新作で、源ちゃんの後任として脚本・演出を務めてくれた静 恵一さんとの再会でした。
静さんは『BEAUTIFUL』の脚本を読み、
「ぜひ演出をやらせてほしい」
と手を挙げてくださいました。
こうして、大きく止まっていた歯車が再び回り始め、念願の舞台化が本格的に動き出しました。
05. 音楽制作──記憶と対話しながら紡いだ10曲
公演が決まり、僕も本格的に音楽制作に入りました。
作りかけの曲に手を入れ、また今回のために新しく書き下ろした曲もあります。
創作のたびに思い出されるのは、
・源ちゃんとの長年の作業のやり取り
・居酒屋で語り合ったミュージカルや映画音楽の話
・徹夜で作業したあの日々
「源ちゃんならどうするだろう?」
「こういう感じ、きっと好きだったよな?」
──そんな対話を心の中で繰り返しながら、10曲を形にしていきました。
ときおり、
「これが源ちゃんとの最後の共作になるのか」
と思うと胸が締めつけられましたが、それ以上に、奇跡のような創作の時間を大切に噛みしめました。
気づけば、脚本を受け取ってから5年という歳月が流れていました。
06. 最後に──この作品を通して伝えたいこと
源ちゃんが遺したこの『BEAUTIFUL』を、一人でも多くの方に観ていただきたい。
そして、作品に込められた源ちゃんの想いを、観てくださる皆さんと共有できたら──そう心から願っています。
神村茂三(音楽)